子育て世代の社員にとって、育休明けの復帰は不安になったり緊張したりするもの。そんな育休明けの社員を支えるのに必要なのが、復職支援や復帰支援です。ここでは、育休明け社員の復職を支援する「育休復帰支援プラン」の概要をはじめとした復職支援の制度を解説します。
育休明け社員の復職支援に欠かせない「育休復帰支援プラン」
性別や雇用形態にかかわらず、誰もが希望に応じて仕事と育児を両立していくために、企業には育児休業の円滑な取得や職場復帰を支援することが求められています。また、育休中のみならず妊娠期から職場復帰後の働き方についても配慮や支援を行うことが大切です。
育休復帰支援プランとは、厚生労働省によって導入された育休取得・育休明けの復職を支援するために策定するプランです。厚生労働省による策定マニュアルが用意されており、個々の企業が策定マニュアルに沿って復職支援プランを作成していきます。 育休復帰支援プランを策定するメリットは様々あり、子育て世代の社員のライフワークバランスを実現できることはもちろん、企業にとってもメリットがあります。とくに中小企業の場合は、 育休復帰支援プランを作成することで両立支援等助成金の「出生時両立支援コース」、「育児休業等支援コース」の助成金を獲得するための基準が設定できるメリットがあります。
育児休業等支援コースの対象となるには?
両立支援等助成金の「育児休業等支援コース」は、育休取得時と復職時それぞれで助成金と条件が設けられています。ここでは「育児休業等支援コース」の主な条件を紹介します。
育休取得時の条件
- 円滑な育休取得・職場復帰を支援するため、育休復帰支援プランに基づいた支援を明文化し、その旨を社員へ周知していること
- 育休復帰支援プランを作成すること
- 休業までの業務の整理や引継ぎに関すること、復職後の働き方や資料の共有方法についての情報を面談を実施したうえで決定し、その旨を記録していること
- 3ヶ月以上の育児休業を取得すること(産後休業を取得する場合、産後休業期間を含めたうえで3ヶ月以上の休業期間を取得すること)
- 育児休業制度などを労働協約または就業規則に定めていること
- 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、労働局に届け出ていること
- 対象労働者を育児休業の開始日において、雇用保険被保険者として雇用していること
復職時の条件
- 育休復帰支援プランに基づき、対象者の休業中における職場の情報や資料提供を行うこと
- 対象者の職場復帰前に育児休業取得者と面談等を行い、面談シートに記録すること
- 対象者が職場復帰後、原則として休業前に就いていた職務(原職等)に復帰させること
- 対象者の復職時は、原則として現職へ復帰させ、なおかつ6ヶ月間継続雇用すること
- 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定し、労働局に届け出ていること
育児休業等支援コースで受け取れる助成金
前述の通り、育児休業等支援コースの条件を満たした中小企業は助成金を受け取ることができます。金額は、育休取得時・職場復帰時でそれぞれ30万円と設定されており、1事業主につき社員2人(正社員1人、契約社員1人)に支給されます。
出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)とは?
「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」は、男性社員が育児休業または育児目的の休暇を取得しやすいよう配慮したうえで、実際に男性社員が育児休業や育児目的の休暇を取得した場合に支給されます。1人目の育休取得時に受け取れる助成金は、20万円で、2人目・3人目が10万円です。就業規則等を定める代わりに育休復帰支援プランを作成することで一部の要件を満たすことができます。
プラン策定前に確認しておきたい、育休・復職支援制度
育休復帰支援プランは、厚生労働省が発表している『中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル』をもとに策定していく必要があります。策定前には、育児休業をはじめとした様々な育休・復職支援制度について把握することが大切です。
育児休業制度
いわゆる「育休」と呼ばれるのが、この制度を指します。子どもが1歳に達するまでの期間中に(母親の場合、出産から8週間の産後休業を含める)、育休を取得できる制度です。社員が育休の取得を希望した場合、企業はその申請を必ず認めなくてはなりません。育児休業中は、「育児休業給付金」も受給できます。育児休業と混同されがちな言葉に「育児休暇」がありますが、育児休暇はあくまで企業ごとに定めている福利厚生です。法令上の制度である育児休業とは性質が異なるため、混同しないように注意しましょう。また、育児休業は女性社員だけでなく男性社員も取得対象となります。
育児短時間勤務制度
3歳未満の子どもがいる社員を対象にした制度です。2009年の育児・介護休業法の改正に伴い、導入されました。対象となる社員の1日の所定労働時間を原則6時間とすることを定めています。仕事と育児の両立には、大きな体力的負担がかかります。同制度は、社員の体力的負担を軽減することで、仕事と育児の両立を支援する制度として整備されています。
時間外労働の制限
時間外労働の制限は、未就学の子どもがいる社員を対象にした制度です。対象となる社員は、子どもが小学校へ入学するまでの間、「1ヶ月24時間まで」、「1年150時間まで」という条件で時間外労働が制限されます。育児休業制度と同様に、社員から希望があった場合、事業主は必ず承認する必要があります。
所定外労働の制限(残業免除)
所定外労働の制限は、3歳未満(2025年4月以降は未就学児)の子どもを持つ社員が対象となる制度です。対象となる社員から希望があった場合、事業主は所定外労働を制限(残業免除)しなくてはなりません。
深夜業の制限
深夜業(22時~翌5時の就業)の制限は、未就学児の子どもがいる従業員が対象となります。子どもが小学校へ入学するまでの期間中、対象社員は深夜業の制限を事業主へ申請することができます。具体的には1回の申請につき、1ヶ月以上・6ヶ月以内の制限期間を申請できます。申請回数に上限は設けられていません。
【出典】厚生労働省 中小企業のための「育休復帰支援プラン」 策定マニュアル (改定版)
2025年4月の育休制度改正
育児・介護休業法の改正に伴い、2025年4月・10月から以下の内容が変更になります。
- 子の看護休暇の要件見直し(2025年4月)
- 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大(2025年4月)
- 短時間勤務制度の代替措置にテレワーク追加(2025年4月)
- 育児のためのテレワーク導入の努力義務化(2025年4月)
- 柔軟な働き方を実現するための措置等(2025年10月)
子の看護休暇の要件見直し(2025年4月)
現在の「子の看護休暇」は、2025年4月から「子の看護等休暇」に名称が変更され、以下のように見直されます。
改正内容 |
改正前 |
改正後 |
対象となる子の範囲の拡大 |
小学校就学の始期に達するまで |
小学校3年生修了まで |
取得事由の拡大
(③④を追加)
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①病気・けが
②予防接種・健康診断
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①病気・けが
②予防接種・健康診断
③感染症に伴う学級閉鎖等
④入園(入学)式、卒園式
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労使協定による継続雇用期間6ヶ月未満除外規定の廃止 |
<除外できる労働者>
①週の所定労働日数が2日以下
②継続雇用期間6ヶ月未満
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<除外できる労働者>
①週の所定労働日数が2日以下
※②を撤廃
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名称変更 |
子の看護休暇 |
子の看護等休暇 |
子の看護休暇を取得できる子どもの年齢が小学校就学前から小学校3年生までに延長されます。
また、これまでの病気やけがの世話に加えて、感染症による学級閉鎖や入学式などの場面でも育児休業の取得が可能になるため、名称が「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変更されます。
さらに、労使協定で除外できていた「勤続6ヶ月未満の労働者」の除外を廃止し、週の所定「労働時間が2日以下の労働者」のみが制度の対象外となります。
所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大(2025年4月)
所定外労働の制限(残業免除)は、3歳までの子を養育する社員が対象でしたが、改正後は小学校就学前の子を養育する社員まで拡大されます。
改正内容 |
改正前 |
改正後 |
請求可能となる労働者の範囲の拡大 |
3歳未満の子を養育する労働者 |
小学校就学前の子を養育する労働者 |
育児のためのテレワーク導入の努力義務化(2025年4月)
3歳未満の子を養育する社員に対して、テレワークを可能にする努力義務が企業に課されます。
改正内容 |
改正前 |
改正後 |
テレワークの努力義務化 |
テレワーク義務なし |
テレワークの努力義務化 |
短時間勤務制度の代替措置にテレワーク追加(2025年4月)
3歳に満たない子を養育しながら短時間勤務制度を利用できない社員がいる場合には、国が定める代替措置(始業時刻の変更やフレックスタイム制など)を設け、労使協定を締結することで短時間勤務の適用から除外することが認められています。改正後はその措置にテレワークが追加されます。
改正内容 |
改正前 |
改正後 |
代替措置のメニューを追加 |
<代替措置>
①育児休業に関する制度に準ずる措置
②始業時刻の変更等
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<代替措置>
①育児休業に関する制度に準ずる措置
②始業時刻の変更等
③テレワーク
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柔軟な働き方を実現するための措置等(2025年10月)
2025年10月からは、3歳から小学校就学前の子を養育する社員に対して措置が義務付けられます。
具体的には以下2つの対応が事業主に求められることになります。
- 育児期の柔軟な働き方を実現するための措置
- 3歳に満たない子を養育する社員に対しての個別の周知・意向確認と意向聴取時の配慮
育児期の柔軟な働き方を実現するための措置
「育児期の柔軟な働き方を実現するための措置」とは、仕事と育児が両立できるよう、働く時間や場所などを柔軟にできる制度を導入するということです。
事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する社員に関して、以下5つの措置の中から2つ以上の措置を選択して講ずる必要があります。
① 始業時刻等の変更:次のいずれかの措置(1日の所定労働時間を変更しない)
・フレックスタイム制
・始業または終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度(時差出勤の制度)
② テレワーク等:1日の所定労働時間を変更せず、月に10日以上利用できるもの
③ 保育施設の設置運営等:保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与をするもの(ベビーシッターの手配および費用負担など)
④ 養育両立支援休暇の付与:1日の所定労働時間を変更せず、年に10日以上取得できるもの
⑤ 短時間勤務制度:一日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むもの
社員は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。
なお、事業主が講ずる措置を選択する際は、過半数労働組合または労働者代表から意見を聴取する必要があります。
3歳に満たない子を養育する労働者に対しての個別の周知・意向確認と意向聴取時の配慮
改正前も、企業は社員から妊娠、出産などの申し出があった場合は、育休などの制度を個別に周知して取得するかどうかの意向を確認する必要がありました。
改正後は、3歳に満たない子を養育する社員に対して、子が3歳になる前に上記で選択した制度や対象措置の申出先、 所定外労働(残業免除)などの制限に関する利用の意向確認を個別に面談や書面交付などにより行わなければなりません。
また、個別の意向聴取時(妊娠の申出時と子が3歳になる前)には、勤務時間帯や勤務地などの希望を確認し、状況に応じて社員の意向に配慮しなければなりません。
育休取得から復職までに行う支援のステップ
事業主や人事部は、社員が育児休業を取得してから復職するまでのフローごとに、様々な支援を行う必要があります。自社の支援制度の見直しにはじまり、育休復帰支援プランの策定までのステップを以下でまとめました。
自社の育休支援制度の整備・見直し
社員を支援するにあたって、自社の育休を支援する制度を改めて見直すことが大切です。とはいえ確認事項が多く、「どこから見直せば良いのかわからない」という場合もあるでしょう。そんなときは、厚生労働省が発表している『中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル』のチェックリストを活用するのがおすすめです。チェックリストには「妊娠~出産期に整備すべき措置・制度」「育児期に整備すべき措置・制度」「職場の環境改善に関する措置・制度」の3種類があり、それぞれのチェックリストで自社の育児休業制度に対する整備状況がわかるようになっています。 たとえば「妊娠~出産期に整備すべき措置・制度」では、「妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させている(軽易業務への転換措置)」、「6週間以内に出産する予定の女性が産前休業取得を請求した場合、休業させている。また、出産後8週間経過しない女性を休業させている(産前・産後休業)」などのチェック項目があります。こうしたチェックリストを記録していくことで、自社にはどんな支援制度が揃っているのか、またどんな支援制度が不足しているのかを把握できます。それらの結果をもとに、具体的な支援へ移ります。
具体的な支援
上司や人事担当者と対象社員で面談する機会を設け、対象社員の希望を確認します。面談を実施する回数とタイミングは、妊娠報告後と休業2ヶ月前、復職1~2ヶ月前、復職2ヶ月後の計4回を想定しておくと良いでしょう。同時に会社は、業務の整理や引継ぎに関わる対応、各種助成金の説明なども行い、支援が正しく行き届くよう説明義務を果たさなくてはなりません。
マニュアルに沿った育休復帰支援プランの策定
厚生労働省の『中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル』に沿って、対象社員の業務と職場の状況を踏まえたうえで支援プランを固めていきましょう。『中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル』では、状況に応じたA~Lまでのモデルプランが用意されています。「代替要員の確保が難しい場合」、「人手が不足しており残業が多い場合」など、職場と社員の状況に合ったモデルプランを参考に育休復帰支援プランを練っていきます。 子育て世代の社員が安心して働くためには、育児休業制度をはじめとした支援制度は欠かせないものです。また、その他の福利厚生で社員の子育てを支援するという方法もあります。
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