「育児休業制度」は、「育児休暇」と混同されがちな制度。どちらも従業員の子育てを支援する福利厚生ですが、細かな部分に違いがあります。
ここでは育児休業制度にフォーカスを当て、制度の基本情報や育児休暇との違い、育児休業制度が求められる背景を解説します。
育児休業制度はこんな制度
育児休業制度とは、簡単に説明すると「子どもが生まれたら休業できる制度であり、所定の手続きをすれば手当も受け取れる制度」です。「子を養育する労働者が、法に基づいて取得できる休業」とされています。より具体的に言うと、仕事を休業できる「育児休業制度」と手当を受け取れる「育児休業給付金制度」の2つの制度から成っています。
育児休業制度は、共働き世帯の増加や女性の社会進出により平成3年(1991年)に初めて制定されました。男女の区別なく取得できますが、取得条件が微妙に異なります。女性が産休後から取得できるのに対し、男性は子どもが生まれた日から取得できます。休業期間は子どもが1歳の誕生日を迎える前日までを期限としており、その間であれば希望する時期に休業できます。
また、「保育園へ入所を希望しているが入所が難しい」や「配偶者が死亡やケガ、病気や離婚などの事情で育児をすることが難しくなった」という条件に当てはまる場合は、子どもが1歳を超えても育児休業期間を延長できることになっています。延長期間は、「1歳の誕生日から1歳6ヶ月まで」または「1歳6ヶ月になった翌日から2歳になるまで」という条件で設定できます。
加えて2022年4月から、育児休業制度の順次改正されました。例えば、育児休業制度の取得要件も緩和されます。これまでの育児休業制度の取得要件は、「(パートアルバイト・契約社員等)引き続き雇用された期間が1年以上」となっていました。改正ではこの項目が撤廃され、雇用期間が1年未満であっても育児休業制度の取得が可能となります。
育児休業制度に必要な申請書類は?
育児休業制度の申請書類は、働いている会社である事業主側が中心となって準備をすることになります。主に必要な書類としては、「休業開始時賃金月額証明書」と「育児休業給付受給資格確認票」があげられます。また、初めての申請となる場合は、「育児休業給付金支給申請書」も必要です。これらの書類のうち、育児休業給付受給資格確認票と育児休業給付金支給申請書は、事業所所在地のハローワークで受け取れます。また、参考添付書類として出勤簿もしくは賃金台帳も必要となります。
上記の書類は、事業主が用意してくれるケースがほとんどであるため、従業員自らが用意する必要のある書類は、「母子健康手帳の写し」と「口座通帳の写し(育児休業給付金を受け取るためのもの)」です。また、育児休業給付金支給申請書と育児休業給付受給資格確認票の記入事項には個人番号(マイナンバー)を記入する欄もあります。個人番号を確認できる書類を、あらかじめ用意しておくと良いでしょう。
必要書類を揃えて記入したら、口座通帳の写しと母子健康手帳の写しと一緒に事業主へ提出します。その後、事業主が必要書類を管轄のハローワークへ提出すれば、初回申請が完了するという流れになります。
育児休暇との違い
混同されがちな「育児休業制度」と「育児休暇」ですが、両者には法的な制度か・企業努力の一環かという違いがあります。また、対象となる子どもの年齢にも違いがあるのです。以下で、それぞれの違いを解説します。
法的な制度か否か
育児休業制度は法令上の制度であり、「育児・介護休業法」に基づいて整備されたものです。つまり企業は、対象従業員に対して必ず育児休業制度を適用させる必要があります。「育休」と呼ぶ場合、多くはこの育児休業制度を指しています。一方の「育児休暇」は法的に整備されたものではなく、企業によって導入の内容や取り扱いが異なります。給与発生の有無も、企業によって差異があり、あくまでも、企業ごとの裁量によって導入されているものと考えると良いでしょう。
対象となる子どもの年齢にも違いが
育児休業制度では、「1歳未満の子どもを持つ従業員」が取得対象となっています。対する育児休暇では「就学前の子どもを持つ従業員」を取得の対象としているのが一般的です。
育児休業の浸透を後押しする2つの制度
育児休業制度は、女性従業員だけでなく男性従業員も取得できます。しかし、厚生労働省が行った「令和2年度雇用均等基本調査」によると、男女の育児休業取得率に差があることがわかっています。実際の取得率は女性従業員が81.60%であるのに対し、男性従業員は12.65%という結果が発表されています。令和元年度では、男性の取得率は7.48%。取得率が飛躍的に向上し、初の1割越えとなった一方、依然として男女の間に大きな差があるのです。
そこで新設されたのが、「パパ休暇」「パパ・ママ育休プラス」などの制度です。以下で、制度それぞれの概要を解説します。
パパ休暇
パパ休暇とは、名前からわかる通り父親を対象とした休暇制度。子どもの出生後8週間以内(母親の産後休業期間中)に父親が育児休業を取得した場合、再度育児休業を取得できる制度です。具体的な取得条件としては、「子どもの出生から8週間以内に育児休業を取得していること」、「子どもの誕生から8週間以内に育休を終了していること」があげられます。
育児休業の取得は、原則として子ども1人につき1回のみとなっています。そこでパパ休暇制度を活用することで再度育児休業を取得でき、母親の負担を軽減したり職場復帰をサポートしたりすることが可能です。
パパ・ママ育休プラス
パパ・ママ育休プラスは、育児休業の対象となる子どもの年齢が1歳から1歳2ヶ月まで延長される休業制度のことです。両親がともに育児休業を取得していることに加え、以下の条件を満たすと取得できます。
- 子どもの1歳の誕生日前日まで、配偶者が育児休業を取得している
- 取得者本人の育児休業開始予定日が、配偶者の育児休業の初日以降に設定されている
- 取得者本人の育児休業開始予定日が、子どもの1歳の誕生日以前に設定されている
「夫婦交代制で育児休業を取得したい」、「夫婦一緒にできる限り長い期間の育児休業を取得したい」というケースで役立つ制度です。法律上で配偶者となっているカップルのほか、事実婚の夫婦でも申請できます。
出典:
厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」
育児休業が制定された背景
育児休業制度が導入された背景には、さまざまな社会情勢があります。なかでもとくに大きなウェイトを占める「少子化対策」「女性の社会進出」「雇用安定化」について、以下で解説します。
少子化対策
厚生労働省の調査によると、2020年時点における全国の出生数は84万835人と報告されています。前年の86万5,239人から2万4,404人減少し、調査開始以来で最小の数字となっているのです。さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響も手伝い、さらなる出生率低下も予想されています。育児休業制度には、少子化対策の一環として夫婦の子育てをサポートする意図があるのです。
女性の社会進出・雇用確保
近年は女性の社会進出が進み、共働き世帯も一般的となっています。2019年には、片働き世帯が582万世帯であったのに対し、共働き世帯は1,245万世帯に上っています。育児休業制度には、働く女性のキャリアと育児をサポートする役割を担っています。育児休業制度が整備されていることで、女性労働者は産休・育休中の空白期間を気にせずキャリアを形成できます。
企業の雇用安定化
企業にとって、せっかくの人材が妊娠や育児で職場を離れてしまうのは避けたい事態であると言えます。子育て中の人材が働きやすい企業であれば、雇用の安定化や定着率のアップにつながります。育児休業制度は、雇用の安定化・職場への定着率アップの効果も期待されているのです。
出典:
厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」
厚生労働省「共働き等世帯数の年次推移」
育児休業制度で受け取れる「育児休業給付金」とは ?
「育児休業給付金」とは、育児休業中の従業員が申請することで受け取れる給付金です。育児休業給付金は雇用保険に含まれている制度であり、給付金を受け取るためには雇用保険に加入している必要があります。
育児休業中の従業員は、ノーワークノーペイの原則によって今まで通りのお給料を会社から受け取ることができません。そこで雇用保険に含まれている「育児休業給付金制度」を利用することで、給与の一部金額を受け取ることができます。
育児休業給付金を受け取れる条件
育児休業給付金を受け取るためには、いくつかの条件を満たす必要があります。詳細な条件を、以下で紹介します。
子どもが1歳未満である
前提として、育児休業給付金を申請できるのは子どもが1歳未満である時期のみです。
雇用保険へ加入している
前述したように、育児休業給付金は雇用保険に含まれている制度です。給付金は雇用保険から給付されるため、申請者は雇用保険へ加入している必要があります。よって、雇用保険へ加入していない自営業者や経営者は給付の対象外となってしまいます。
育休前の2年間に、11日以上勤務した月が12ヶ月以上ある
フルタイム勤務の正社員や長期雇用の派遣従業員であれば、この条件をクリアしているでしょう。有期雇用のなかでも、短期雇用パート従業員や契約従業員は注意が必要です。
育児休業期間中に就業している日数が、各月10日以下に留まっている
育児休業中、1ヶ月の就業日数が10日以上で、なおかつ修行時間が80時間以上であった場合は育児休業給付金を受給できません。
育児休業期間中の各月に、休業前の1ヶ月の賃金8割以上が支払われていない
「育児休業中に、休業前の給与の8割以上が支払われていると給付金が受け取れない」とするルールです。例えば育児休暇前に毎月20万円の固定給をもらっていた人が、育児休業中に16万円以上の給与を継続して受け取っていると、育児休業給付金の給付対象外となってしまいます。
育児休業給付金の支給額
育児休業給付金の支給額は、「労働者の育児休業開始時賃金日額×支給日数の67%」という計算式で算出できます。育児休業開始時賃金日額とは、休業前の6ヶ月間の賃金を180(30日×6ヶ月間)で割って算出する金額のことです。育児休業開始時賃金日額と、育児休業の取得日数をかけて67%にした金額が、1ヶ月に受け取れる給付金となります。
加えて、この計算式は育児休業開始日から6ヶ月以前と6ヶ月以降で変化するため注意が必要です。育児休業開始日から6ヶ月経過した後は、「支給日数(通常30日)の50%」という計算式で支給額を算出します。「6ヶ月が経過するまでは1ヶ月の賃金の67%」、「6ヶ月以降は1ヶ月の賃金の50%」と簡単に覚えておくと良いでしょう。
具体的な例として、育児休業開始日から6ヶ月以前と6ヶ月以降の計算例を解説します。
例えば育児休業前の6ヶ月間で180万円(月30万円)の賃金を得ていた場合、日額は「180万円÷180日=1万円」と割り出せます。よって、「1万円×30日×0.67=毎月の支給額は20万1,000円」という計算になります。育児休業開始から半年以降は、「1万円×30日×0.50=毎月の支給額は15万円」と算出できます。
支給額の上限額・下限額は?
育児休業給付金には、上限額と下限額が定められています。具体的な規定は、育児休業開始日6ヶ月を境に変化するため要注意です。具体的には、以下のようにルールが定められています。
- 育児休業開始から6ヶ月が経過するまで:1ヶ月の上限額は28万6,023円、下限額は4万6,431円
- 育児休業開始から6ヶ月経過した後:1ヶ月の上限額は21万3,450円、下限額は3万4,650円
なお支給額の上限額・下限額はともに毎年8月1日に見直し・改定が行われます。
育児休業制度は、育児中の従業員をサポートするために欠かせない制度。雇用の安定化や離職率の軽減、職場への定着率アップにもつながり、従業員だけでなく企業にとっても重要な制度です。
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