企業内保育は、主に社員の子どもを預かることを目的とした施設です。国が提示した「子育て安心プラン」により、保育所やそれに準ずる受け皿が少しずつ増加している近年。企業内保育所は、その影響で増加した保育施設の1つです。この記事では、企業内保育が持つ役割や開所までの流れ、企業内保育所を導入するメリットについて紹介します。
企業内保育所とは
企業内保育所とは、その企業で働く社員の子どもを預かる保育所のことです。企業のオフィス内、またはオフィスの近隣に設置されていることが一般的です。社員の勤務時間や働き方に合わせた保育体制の導入が可能になります。施設自体は企業がつくり、運営は専門知識を持った外部企業へ委託する場合が多くみられます。
企業内保育所が近年増加する背景には、助成制度である「企業主導型保育事業」の影響があります。同制度は、企業内保育所を開所することで助成金を受け取れる制度です。平成30年の時点の記録によると、同制度による助成が決定した企業内保育所は2,597施設あると報告されています。企業内保育所は、待機児童問題解消の一助になることが見込まれている施設。「子どもを預けたくても預けられない」という女性を手助けし、女性の社会進出や離職率を低下させることが期待されています。
出典:公益財団法人 児童育成協会「
企業主導型保育事業助成決定一覧(平成30年3月31日現在)について」
企業内保育所の種類
企業内保育所には、大きく分けて「事業所内保育所」と「企業主導型保育所」の2つの種類があります。
事業所内保育所
事業所内保育所とは、その名のとおり事業所内に設置されている保育所のことです。「地域型保育事業」の1つの形態として認められており、市区町村から認可を受けた保育所が「事業所内保育所」として扱われます。認可を受けるためには、「市区町村指定の募集枠に応じて地域の子どもたちを受け入れる」などの条件を満たす必要があります。定員に対する4分の1の数だけ、地域枠としての解放が義務付けられているのも特徴の1つです。条件や制約が多い代わりに、設置費や増築費、運営費などの費目で3分の1~3分の2程度の助成金を受け取れます。
企業主導型保育所
2016年に導入された保育所の形態です。市区町村からの認可が必要なく、事業所内保育所と比べると地域枠設定の自由度が比較的高くなっています。地域枠のほか、企業内社員枠の設定も可能です。これにより、企業内の社員へさらに配慮して運営ができるという強みがあります。
保育士の配置条件や対象年齢に違いがある
事業所内保育所と企業主導型保育所には、保育士の配置条件や園児の年齢条件にも違いがあります。事業所内保育所の場合、「乳児3人につき1人以上」、「満1歳以上3歳未満の幼児6人につき1人以上」と、園児の数に対して保育士配置の条件が細かく規定されています。対する企業主導型保育所では、園児の定員数に関わらず2分の1の保育士を配置すれば問題ないとされています。
また、事業所内保育所へ入所できる対象年齢は制度上0歳児から2歳児までです。原則として3歳未満の児童を受け入れ対象としています。3歳児以降の児童に対しては、連携する保育所へ優先的に入園できるというシステムが導入されていて、このシステムに対応するため、事業所内保育所は3歳以上の児童を受け入れてくれる連携園を見つける必要があります。それに対し、企業主導型保育所は対象年齢の規定をとくに設けていません。3歳以上の児童を受け入れている保育所も多くみられます。
業務委託による運営は可能か
事業所内保育所と企業主導型保育所は、両者とも業務委託による運営が可能です。ただし、園で出す給食に関しては、業務委託は不可となっています。保育所内で調理をする、または提携施設からの搬入を行うなどの対応が必要です。
企業内保育所を導入している企業
大手・中小を問わず、企業内保育所を導入している企業は増加しています。実際に企業内保育所を導入している企業の事例をご紹介します。
ブリヂストンの事例
ブリヂストンは、2008年に企業内保育所「ころころ保育園」を開所しています。同保育所は、ブリヂストンの技術センターおよび東京工場と同じ敷地内に併設されています。また、「社員の子育てをサポートする」という目的のもと、2013年には定員数を大幅に拡大し、2021年8月時点での定員は、150名となっています。
ヤフーの事例(現在閉園)
2018年7月、ヤフーは企業内保育所「ヒュッテ」を開所。ヒュッテはヤフーの本社ビル内に設置されており、企業主導型保育所の形態をベースに運営されています。「本当に困っているパパ・ママ社員を支えたい」という思いのもと、月極保育・一時保育両方に対応。
月極保育では生後57日以上の0歳児から2歳児まで、一時保育は1歳児から5歳児までの園児の預かりに対応しています。約500冊の絵本を用意していたり、自然豊かなお散歩コースでの野外活動を導入していたりと、同保育所では情操教育に力を入れています。くわえて希望者には保育所内でオムツを用意したり、布団や洋服を保育所内で洗濯したりという「手ぶら登園システム」も導入し、パパ・ママ社員のサポートに注力しています。「初めて我が子を預ける場所だからこそ、経験豊富な保育士さんを採用する」という姿勢で採用活動も行っています。
GMOインターネットグループの事例
GMOインターネットグループは、2011年に企業内保育所「キッズルームGMO Bears」を開所しました。「世界一の託児所」という理念を掲げ、さまざまなサービスとカリキュラムで社員をサポートしています。タオルやオムツを完備するランドリーサービスや、コミュニケーションスペースを使った子どもとのランチタイムサービスを行っています。音楽会やクリスマス会など、さまざまなイベントを通して、子どもたちの知育にも注力しています。また、近隣小児科と提携し、子どもたちの急な発熱や体調不良にも対応しています。
ホテル日航成田の事例
ホテル日航成田の「なりた 空の保育園」は、2018年4月に開所した企業内保育所です。同保育所はホテル別館のワンフロアを改装して導入された施設で、年中無休・朝7時から夜22時までという体制で運営されています。「空、飛行機、世界」のキーワードのもと、子どもたちの感性を豊かにするシステムを導入し、「世界に羽ばたく豊かな感性と想像力を持った子どもたちを育成する」という理念を掲げて運営しています。保育所内には、子どもたちの年齢や発達に応じた保育室を設置されていて、友達と助け合うこと、楽しく挑戦することなどを、1人ひとりの発達に合った部屋で学ぶことができます。
上記の事例からもわかるとおり、各企業は企業の理念や立地、特性を活かして企業内保育所を運営しています。
企業内保育所の導入メリット
ぐずってしまったときのために、お気に入りおもちゃや絵本を用意するのも手です。スマートフォンやタブレットに好きな動画を取り込んでおいて、いつでも見られるようにしておくのも良いでしょう。接種を受ける会場にキッズスペースがある場合は、気分転換に一緒に遊んでも良いかもしれませんね。
社員の育児支援になる
保育園や託児所が見つからず、優秀な女性社員が妊娠や出産を機に離職してしまうのは企業にとっても大きなダメージです。企業内保育所があれば子育て世代の社員の離職率を防ぎ、復職率を高められます。社員も「子どもを預けられる場所がある」という安心感のもと、仕事に集中することができます。
企業のイメージアップになる
企業内保育所を導入することで、「子どもや女性に優しい企業」、「育児支援が手厚い」というイメージアップを図れます。待機児童問題の解消が急務とされているなか、企業内保育所の導入は子育て世代やさまざまな層へのアピールポイントとなるはずです。
社員と子どもの距離が近くなる
企業内保育所の多くは、オフィスと同じビルもしくは同敷地内に設置されます。これにより社員と子どもの距離が近くなり、保護者と保育所の意思疎通がスムーズになります。毎日の送迎もしやすくなるうえ、子どもの体調不良時にも迅速に対応できるのも大きな魅力です。
保育士にとっても働きやすい
企業内保育所の多くは企業と同じく平日運営・土日祝を休日としているため、「思うように休みが取れない」、「休日が少ない」ということもなく、保育士はメリハリをつけて働くことができます。くわえて、企業内保育所は通常の保育所と比べると行事やイベントが少ない傾向にあります。行事やイベントは楽しい反面、準備に時間がかかったり、持ち帰りの仕事が増えたりして大変な面があります。それらに関わる負担が少ないため、比較的働きやすいというメリットがあるのです。
郊外型は今後も需要あり
従業員の子育てを支援することは、従業員の定着率アップだけでなく地域の活性化も狙えるでしょう。たとえば近年では、郊外型ショッピングセンターによる企業主導型保育所の事例もみられるようになってきました。これはショッピングセンター内で働く従業員と、その子どもを対象とした企業内保育所のケース。郊外型ショッピングセンターが企業内保育所を設置することで、子どもとその家族が集まれる場所が生まれます。結果的に、街や地域のにぎわいにつながると考えられるのです。そうすることで地域貢献となり、企業側のイメージアップも図れるでしょう。
企業内保育所のデメリット
企業内保育所にはさまざまな魅力がありますが、一方でデメリットもあります。以下では、代表的なデメリットをまとめて紹介します。
同伴が難しい場合もある
企業のオフィスビル内に保育所が入っている場合、距離が近くなる反面通勤時の負担が増えます。「通勤ラッシュ時に子どもを同伴するのが難しい」という社員は、企業内保育所があっても十分に利用できないことが予想されるのです。
地域の保育園と比べると行事が少ない
従来の保育園と比べると、行事やイベントが少ないのも企業内保育所のデメリット。企業内保育所は企業のオフィスビル内や敷地内などにあるため、運動会やお散歩などのイベントの開催が難しくなってしまいます。
運営側は自力で児童を集める必要がある
従来の認可保育園(国が定めた設置基準を満たし、各都道府県知事の認可を受けた保育園)の場合は、行政に子どもを集めてもらえるのに対し、企業内保育所は企業側が自力で子どもを集める必要があります。さらに企業主導型保育所の場合は、定員の5割以上を社員向け枠として設けなくてはなりません。したがって社員に対する調査をはじめ、近隣企業や自治体と協力して定員を埋める工夫が必要となります。導入条件を満たすための手間やコストがかかってしまうため、企業によっては大きな負担になってしまうことがあります。
運営の課題と展望
社員の働きやすさや育児をサポートする効果が見込める反面、課題も抱えている企業内保育所。社員から「勤務形態によっては同伴が難しい」、「休日に利用できないので不便」と声があがることも珍しくないようです。くわえて「従来の保育園と変わらない保育が受けられるのか」と、保育の質や運営スタイルを懸念する声も少なくありません。「子どもとの同伴出勤がしやすいよう根本的な勤務形態を見直す」、「保育士の働き方・負担を見直して保育の質を上げる」などの対策が各所で必要となっています。
導入・運営までの流れ
企業内保育所を導入するにあたり、どのような手順を踏むのか気になっている企業の担当者の方も多いのではないでしょうか。ここでは、企業内保育所を導入する際の流れを簡単にご紹介します。
保育所の形態を決める
最初にやるべきことは、保育所の運営形態を決めることです。「自社単独運営にするのか」、「複数企業による共同運営にするのか」などの点を検討する必要があります。また「自社で直接運営するのか」、「専門の保育企業へ委託するのか」といった点は保育の質に直接関わる部分です。直接運営するのであれば、それだけの資金や体力が自社にあるのか、委託するのであれば業者探しにかかるコストを正確に計算できるのかといった点を慎重に検討しましょう。
社内でのニーズ調査
運営方針が決まったら、社内のニーズを調査します。「何歳までの子どもを受け入れられるのか」、「社内で育児中の社員はどのくらいいて、どの程度、定員が埋められそうか」といった点を洗い出していきます。
自治体への相談・申し込み
企業内保育所を開所する際は、食品衛生法や消防法などの法令に従う必要があります。法令に関わることや、地域枠の取り扱いについては、自治体へ積極的に相談しましょう。同時に設置場所の下見や確認を行います。
申請・開所準備
企業主導型保育所の場合、自治体から各種助成金を受け取れます。助成項目をしっかり確認し、児童育成協会や自治体へ申請しましょう。その後は保育士や調理師などの人材を採用したり、保育料の検討をしたりといった開所準備へ移ります。
企業内保育所は、企業だけでなくそこで働く社員や子どもたちにとっても魅力的な設備です。しかし導入ノウハウがない企業にとって、企業内保育所の導入のハードルは低くありません。
パソナフォスターの運営コンサルティングでは、保育園の開所や運営を全般的にサポートします。検討段階に始まり、開所手続きや実際の運営までを支援いたします。また、育児コンシェルジュデスクの設置やホリデー学童の実施など、企業内保育の枠に留まらないサービスも提供しています。働くパパ・ママ社員と、その企業を応援いたします。
詳しくはこちらの「
運営コンサルティング」でご覧いただけます。保育運営に関する課題や困りごとなどのお問い合わせも受け付けておりますので、ご相談ください。